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塩野七生 著   新潮社(1996/03/30)

 

カエサルが暗殺された。

第四巻からここまで読んできて、カエサルに魅了されてしまった私には2000年以上も前のことながらなにか、悲しいものがあった。

元老院による寡頭制に疑問を呈し、人生をかけてローマ帝国を築き上げようとしたカエサル

戦略的頭脳にも、政治的頭脳にも優れ、それでいて女好き。 魅力満点の男である。

また元老院に担がれた感じの「三頭政治」の一人、ポンペイウスも戦いに敗れ、戦術家としてはおもしろい人物である。

この二人の「ファルサルスの戦い」は、読んでいるだけで興奮してしまう。

才能ある二人だからこその歴史上に残る戦い方。
当時のローマ人の知性には頭が下がる。 今でいうインテリジェンス(情報)を十分に駆使した戦いは、まさにお手本ともいうべきものであった。

そんなカエサルの凱旋式でのシュプレヒコール 「市民たちよ、女房を隠せ。禿の女たらしのお出ましだ!」は傑作である。 ユーモアもあるローマ人にもまた魅力を感じる場面であった。

 

そんな彼の考えとは正反対のローマ人。共和制ローマを維持することこそ、ローマの本来の姿と疑わなかった人たちもまた、否定されるべきものではないであろう。

どちらが正しく、どちらが間違っているかの答えは出せないのではないか?

カエサルの考えたは、どの民族であろうが関係ないとしたところには、現代に生きる私も違和感がある。

それよりも日本古来のものを重視したい、と願うのは私だけではないであろう。

それと同じ考えだったかはわからないが、小カトーは最後に壮絶な自死を選ぶが、彼もまた、ローマを愛した男であったことは間違いない。

それに比べて・・・と言っては失礼だが、この書籍で登場するキケロは何とも優柔不断であった。

ローマ有数の知識人としてだれもが認め、その文体も素晴らしいものであったそうであるが、ひたすらグチを言う人物として私の頭の中に定着してしまった。

彼もまた、共和制ローマを愛した男であったが・・・

 

カエサル暗殺とはなんだったのか?

カエサルが殺されたことでは、共和制ローマは復活しなかった。

市民はそれを望まなかったからなのか。

それが今後のローマにとってよかったのか、あるいは・・・

 

カエサルに後継者として指名されたオクタヴィアヌス

カエサル死後、オクタヴィアヌスはひたすら帝政ローマを樹立する道を選ぶが、そのやり方がカエサルとは正反対なのが印象的だ。

処罰者名簿の作成がその典型。 カエサルの後継者として恥じぬよう、必死だったのか? あるいは、ローマを自分のものにするための行動なのか?

カエサルに心奪われた私は、オクタヴィアヌスのやり方が少々、強引で、カエサルはこれで納得するのか?と疑問に思ってしまった。

まぁ、クレオパトラというエジプトの野心を持った女に心を奪われ、ローマ人としての誇りも捨ててしまったアントニウスを敵に回しての戦いは別として。

カエサルの副将として戦ったアントニウスの人生さえも狂わせたクレオパトラとはそこまでの美女だったということか。

クレオパトラ = 世界三大美女、しか印象のなかったが、このような形でローマとかかわりあい、悲しい最期を遂げているとは・・・

 

しかしこれで、いよいよオクタヴィアヌスの帝政ローマがはじまるわけである。

どんなローマになっていくのか。 カエサルの臨んだローマなのか。 期待とともに、不安の気持ちで次巻を読み始めることとなりそうだ。 

 

カエサルの有名な言葉

人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は見たいと欲する現実しか見ない

私の心に残るこの言葉で第五巻の書評を結ぶ。

 

2008/8/20 読終

 

 

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